居合道 道場案内所 



野太刀のだち自顕流じげんりゅうは、薩摩さつま(現在の鹿児島県)を中心に伝承されてきた剣術で先制攻撃を重視する流派です。単に剣術というだけではなく、そこには郷中教育ごうちゅうきょういくという独特の教育方法と文化が深く関わってきます。今回はその野太刀のだち自顕流じげんりゅうを現在に伝承する野太刀自顕流兵法会武蔵常盤道場の道場主である字引 様に執筆をしていただきました。




現代における野太刀自顕流と郷中教育の意義


ー 野太刀自顕流兵法会 武蔵常盤道場 道場主 字引淳 著



1.はじめに


野太刀自顕流兵法会は、宮崎県都城市に本部を置いています。縁あって、都城市の事業である郷中教育ごうちゅうきょういく体験会に協力をさせて頂き、地元の文化である、薩摩文化を伝えております。

古武道には、「故郷」「育くんだ文化」「伝えた人」という三本柱があり、故郷を離れ他の地域で普及、継承をするためには、この三点を忘れないことが大切です。古武道は、故郷、文化、人々との交流によって伝わるという考えからです。

当会には、遠く離れた武蔵常盤むさしときわ道場があります。ここでは特に、南九州の流派の先達に敬意を払い、歴史、文化を尊重し、現在の門人達との交流により、野太刀の技を伝えております。


2.郷中教育とは


郷中教育ごうちゅうきょういくは、薩摩文化の一つで、戦国以降の島津領にて、同郷の「先輩が後輩を教える」形で、行われた人材育成方法です。文武両道(頭脳、体力、精神)の武士を育てることが目的であり、考える力の鍛錬には詮議、体力鍛錬には、山坂達者やまさかたっしゃ、武道修練など、精神の鍛錬には、日新公じっしんこういろは唄の暗唱、論語暗唱、などによって、薩摩武士として必要な素養(組織行動、軍事教練、主君に対する忠誠、掟)を身につけました。
郷中教育体験講座
郷中教育体験講座


郷中教育ごうちゅうきょういくの歴史は、朝鮮出兵の頃に遡ります。
朝鮮半島では、朝鮮軍の支援にやってきた明の援軍に「鬼石曼子おにしまづ」と言わしめた島津軍ですが、日本国内では、豊臣の泰平が訪れていました。朝鮮の役に参加しなかった二才にせ世代(15歳前後から妻帯時までの男性)に、生活の乱れが生じ、捨て置けぬ事態になりました。その矯正のために始まった講座、二才噺にせにせばなしの集まりが郷中教育ごうちゅうきょういくの始まりと伝えられています。


3.薩摩武士とは


一般的に薩摩武士のイメージは、武勇の面が先に立ちますが、実は、武勇以上に組織力、外交力に優れていました。情報収集能力は、他国に劣らず、詮議によって鍛えられた考える力により、日本の歴史に影響を与えてきました。

武勇の例は、朝鮮の役や、関ヶ原島津退き口があります。
外交上手の例として、関ヶ原の役、その後の所領安堵しょりょうあんど宝暦ほうれき時代(1751〜1764年、江戸時代中期)の過酷な御手伝普請おてつだいふしん宝暦治水事件ほうれきちすいじけんがなどがあります。

関ヶ原の役で、島津義弘しまづ よしひろ公は西軍に加わり、本来ならば取潰し必至であった薩摩は、戦後情報を収集、分析、今何をすれば良いかを導出し、徹底した謝罪により本領安堵ほんりょうあんどを勝ち取りました。

宝暦治水事件ほうれきちすいじけんとは、美濃国みののくに(現在の岐阜県)木曽三川きそさんせん(木曽川、長良川、揖斐川の3つの川の総称。かつて、この三本の川は、下流部で合流・分流を繰り返し、川幅も広く、たびたび水害を起こしていた)の堤防工事の事で、幕府が設計、監督、薩摩が出資、施工という、不平等な公共工事のことです。財政難であった薩摩にとっては存亡をかけた大問題でした。当然、藩論は「戦か」「恭順か」に分かれ、徹底した議論を交わし、島津重年の家老、平田ひらた靫負ゆきえの必死の説得により「恭順」に藩論は統一されました。

千数百人の薩摩武士が「刀をくわに持替え」、美濃国みののくにに向いました。これは、薩摩に限らず武士にとっては屈辱であり、幕府に対して戦端を開く原因になってもおかしくありませんが、薩摩武士は、それをしませんでした。詮議を尽くし、方針を決めたら「議を言わず」忍耐して従う。これは、郷中教育ごうちゅうきょういくにより養われた組織行動でした。

4.郷中教育と、野太刀自顕流の意義


郷中教育ごうちゅうきょういくの成果は何かとと問われると、それは、主君を守り、国を守ることです。薩摩という国を守ることは、そこで暮らしを営む、薩摩の人々を守ることと同じです。

これは、時代を下った現代でも通じることだと考えています。
「自分の国である日本、文化、人々は自分で守る。」その気概がなくして、武道修練は意味があるのでしょうか?

実際に野太刀のだちの技を実戦で使うことは有り得ない令和時代に、野太刀のだちの技を鍛錬する意義は、大切なものを守るためにあると考え、私たちは、日々の稽古に勤しんでおります。


野太刀自顕流兵法会 演武ダイジェスト







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