居合道 道場案内所 


あなたが居合を始めたキッカケは何でしょうか。人それぞれ違うとは思いますが、もしかしたら「サムライへの憧れ」はありましたか?戦国の時代ではない現代に「サムライ」が居るとしたら、どのような人物像が「サムライ」なのでしょうか。今回は居合を通じて「現代のサムライ」を目指す名剣居合道場 達磨塾の森田 政宏もりた まさひろ様に執筆をしていただきました。




現代のサムライを目指す


ー 名剣居合道場 達磨塾 森田政宏 著


1.はじめに


なぜ、居合を始めたか? 居合の目的はなにか? 私自身は、自己のひ弱な体格、ひ弱な精神の強化を目指して始めています。三島 由紀夫みしま ゆきお氏と同じと言えます。武道を始める方のほとんどは、コンプレックスを克服したいという理由からでしょう。肉体的、精神的あるいは自身の境遇の中に、コンプレックスを抱え、武道の持つ「強さ」、「やさしさ」「正統性」などへの憧れから入門される人が多いです。コンプレックスを持たずに入門される人は、ほとんど、辞めてしまわれます。どのような分野においても、「コンプレックス」、「ハンディキャップ」は、大きなモチベーションを与えます。さて、話を居合道に戻し、居合道の魅力とその稽古方法について、紹介します。

2.戦場で生きるすべ


微動だにしない姿勢より見えざる眼前がんぜんの敵に、鋭い抜きつけと切下ろしを放ち、残心ざんしんの後、静かに納刀のうとうする。調息ちょうそくの中に気を溜め、制御された集中力により瞬発力を生み出し、抜きつけを放つ。ひと呼吸の元、連続の切りを放ち、静止した時間と姿勢の中に、次なる攻撃に備えた残心ざんしん丹田たんでんに抱え、納刀のうとうする。四方を囲む敵を八方目はっぽうもくで観ぬき、素早く右敵を袈裟切り、反転し、左敵を斬り下ろす。前方への流し目にて敵を捕らえ、脇構わきがまえから水平に胴を切り裂く。後方の敵に向け反転と同時に切り下ろし、さらに前方へ反転し、切下ろす。

感情を押し殺した殺人者。平常心で人を倒す。呼吸も精神も身体も乱すことなく、敵を倒す。武の道を究めた武芸者。戦場の兵士。戦国の時代、武士は敵を倒すことが天職であり、自己の生命を守る唯一の手段でした。血み泥の記憶の中に生涯を過ごし、死を迎えます。

現代の居合は、殺人を実行することなく、殺人の模擬訓練を行うことでしょうか?
殺人の模擬訓練の延長上に何があるのでしょうか? これが、居合道の目指す人格完成の姿でしょうか?


3.サムライになること


日本には素晴らしい「サムライ」という手本があります。私が居合を学び、稽古する目的はただ一つです。「サムライ」になること。世界に通用する日本人、真の国際人となること。何事にも恐れず、ひるまず、自らの力を信じ、「不動ふどうの精神力」を持って事に当たる人間になることです。これこそが「サムライの胆力たんりょく」です。

居合の姿に、堂々たる「」を追求する。あらゆるコンプレックス、ハンディキャップを成長のモチベーションとして克服し、鍛え上げたサムライの胆力、そこから生み出された姿には、西洋人が見ても美しく感じる普遍的ふへんてきな「」が存在します。幕末の欧米使節団おうべんしせつだん、体格は当時の欧米人と比較して子供のように小さな彼らが、武芸の稽古を通して得た自信(胆力たんりょく)を備え、堂々と交流、交渉した姿が、欧米人の心を打ちました。世界に通用する日本人、真の国際人でした。
当時、ニューヨークでは日本からの万延元年遣米使節団まんえんがんねんけんべいしせつに対し、ブロードウェイでパレードが行われ50万人もの人が集まり、空前と言われる大歓迎を受けたと記録されています。

サムライをめざす手段は、必ずしも「居合」である必要はなく、剣道でも柔道でも空手でも良し、武道でなくとも、如何なる道を歩もうと到達できるものと思います。
そこは、本人の好き嫌いや身体的向き不向き、生活環境、様々な条件で選択すればよいでしょう。


4.サムライ養成稽古


当道場での稽古方法についても紹介します。名剣居合道場 達磨塾で行っている稽古は決して門外不出の殺人格闘術を稽古しているわけではないです。古来より伝承された無双直伝英信流正統会 第二十三代宗家 福井 将人ふくい まさと先生の教えと、無双直伝英信流居合兵法(正統会) 十段位 加藤 文雄かとう ふみお先生のご指導による居合形の稽古を繰り返し、正確な姿勢が取れるよう全員揃って、号令に合わせ、稽古し、20分に1度は小休止を5分程度取り、次の業へと進みます。集中力が命の居合では、連続して稽古をするよりも小休止を適度にとり、その間、様々な雑談や質問を交わしながら研究を深めることが重要と考えています。


5.読書百篇、意自ずから通ず


日本式教育システムの良い所は、まず「形」から入ることとでしょう。
過去400年以上にわたり、数々の剣聖けんせいが編み出した 珠玉しゅぎょくわざの数々。これら業の「形」を学ぶことを通し、その神髄しんずいを身につけ、体得するまで、繰り返えし続けることで、「意」おのずから通ずにあります。命のやり取りの中で、編み出されたわざの数々。

江戸時代までは、門外不出として秘密裏に伝承されてきた技の数々は、幸いにして、現代では、広く公開され指導普及されています。伝承された形の研究を通し、わざに隠された真のわざを見つけ出すことも、先人の思いを受け継ぐものの役目と思っています。
また、単独の形稽古で陥りやすい「独りよがりの居合」になることを避けるため、仮想敵をリアルな敵に置き換え、想定稽古を取り入れています。組居合くみいあいの形稽古も大切だが、単独形の中にある間合い(敵との距離)、理合(敵とのタイミング)、目付け(敵の僅かな動きを捉える動体視力)の訓練を取り入れています。ここで、間合い、理合、目付けの解釈が違うとお叱りを受けるかもしれないが、あえて、私はこのように解釈しています。

さらに、付属武術として、杖術じょうじゅつ、古流剣術なども、個人の自由意志のもと、稽古に取り入れることもありと考え、習いたい人は、併せて稽古に励んでいます。これら付属武術を併せて稽古する利点は、相対稽古を前提とした古流剣術や杖術により、様々な相手との間合いの違い、タイミングの違い、目付け・目つきの違いなど、リアル攻撃に対する動作を基にした居合の動作が身についてくることです。

伝承されたる居合形を守りながらも、様々な稽古方法を研究し、如何いかなる事態にも素早く対処できるとともに、どのような殺気立つ相手を前にしても、気後れせず、立ち向かえる胆力たんりょくを身につけた「サムライ」を目指し、日々稽古に励んでいます。





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